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 与党が基本方針を決めた新たな安全保障法制では、自衛隊の海外派遣の活動が広がると同時にリスクも高まる。12年前のイラク派遣に関わった制服組トップと政権幹部に、当時の教訓と、これからの安全保障のあり方について聞いた。
■大義名分、はっきりさせて 先崎一さん(元統合幕僚長
 イラク派遣の当時、私はポケットに、常にメモを入れていました。万が一、隊員に犠牲者が出た場合、他の隊員や家族にどういう話をするのか、記者会見で何を話すかを書いたものです。非常事態のリーダーシップのあり方に悩んでいた私は、各国の陸軍幹部に相談しました。ドイツの指揮官はかつて部下を10人亡くし、パニック状態になったと言うのです。だから準備をしておいた方がいいと。
 犠牲者が出た場合の具体的な手続きも検討しました。家族に伝えるのに電話だけというわけにはいきません。遺体は政府専用機で運ぶのか、葬送式をどう執り行うか。棺おけも現場に持って行きました。戦死、戦闘死など殉職隊員に対する名誉の問題について、国として何らかの対応を考えてほしいと政治家に要求もしました。名誉は金には換えられません。しかし、海外で戦闘はしないので戦死は認められず、事故死扱いだと言われました。
 なぜそこまでしたのかといえば、それは自衛隊という組織としてのプライドです。犠牲者が出れば政治も国民も相当、動揺するでしょう。命令だから政府が撤収しろと言えば従いますが、他国軍と一緒に活動している以上、自衛隊は何があっても毅然(きぜん)とした態度で、与えられた任務を続けようという思いを持っていたのです。
■反対多数に焦り
 イラク特措法での「戦闘地域」と「非戦闘地域」という線引きは法律用語であり、我々の実態とは違うという意識で臨みました。派遣される立場としては、銃声が一発でも聞こえれば、砲弾が一発でも落ちてくる状態であれば、備えは同じです。対テロ戦では、いつ何が起きるかわかりません。
 自衛隊が活動したのはサマワですが、当初はバグダッド周辺や米軍キャンプ内で給水活動などをしてくれないかという要求もあった。官邸内に「米軍の近くで活動した方がアピールできるのではないか」との声もあったようです。
しかし「ニーズはあっても、それは我々の能力を超えるので、できません」と事前に伝えました。派遣される立場上、そこは譲りません。イラク特措法では認められる武器の使用に一定の範囲があります。敵を排除する武器使用は認められていないので、できないことはできないのです。