読売新聞のカンヌ映画祭の記事より
映画祭2日目の12日(現地)、プレス向け試写で素晴らしい作品に出会えました。
それはコンペティション部門に出品されている「I, Daniel Blake」。魂を揺さぶる人間ドラマであると同時に、痛烈な政治・社会批判。英国の名匠、ケン・ローチ監督のまさに真骨頂というべき作品です。
◆
タイトルが示す通り、主人公は、イングランド北東部の工業都市、ニューカッスルにひとりで暮らす59歳のダニエル・ブレイク。一本気で心の温かい気持ちのいい男性です。腕の良い大工として働いてきましたが、妻を亡くした後、心臓発作を起こし、医師から仕事を止められてしまいました。
当然、社会福祉制度による生活支援の対象者となるはずが、官の判定は「働ける」。ダニエルは権利を求めて手続きを進めようとしますが、いくつもの無意味なやり取り、そして、人を人とも思わぬような対応に振り回されるばかり。
◆◆
たとえば、申請書類の提出はインターネットを通してのみ。それまでネットを使う必要がなかったダニエルは当然困ってしまうのですが、担当者は知らぬ顔。なぜ紙の書類ではダメなのか。なぜ目の前で困っている人を助けないのか。人を追いつめ、管理し、服従させようとする――オーウェルの小説のような世界が現実になっている(この映画を作るにあたっては綿密なリサーチが重ねられたようです)ことにがくぜんとさせられます。
ただ、それでもダニエルは自分らしくあろうとします。収入が途絶えたまま、生活は苦しくなっていきますが、他者にとっての「良き隣人」であろうとします。やはり不条理の中で困窮しているシングルマザーのケイティと、その子どもたちを助け、家族のような温かな時間を過ごすのです。耐え難い痛みの中で、そうした時間がどれだけ救いになることか。
◆◆◆
名も無き庶民の尊厳。ますます窮屈になる世界の中で傷つけられ、押しつぶされていくものを、この映画は、大切に、大切に描きます。時に優しく、時に残酷なまなざしの揺るぎなさ。時代と並走しながら問題提起をし続ける情熱。79歳のローチは新たな名作を生み出しました。
✨✨✨
数年前のことです。
グッドウィルで働いていた時、怪我で
肩の手術をして失業保険を受けました。
失業保険事務所には様々な年齢層の人々が
手続きに来ていましたが、
その時に見た一人の男性が、
コンピュータを使ったことがなさそうで
職員の女性がつきっきりでヘルプしていたのを
覚えています。
家に帰って、一体家にコンピュータがない人、
インターネットなんか使ったこともない人は
どうやって失業保険の手続きをしたらいいのかしらね、
と家人に話した記憶があります。
失業中は仕事を探していることが前提なので
毎週、募集がないか連絡をした場所や
話した担当者などの情報をコンピュータで
入力しないといけません。
これは確かそれ用の用紙もあったように思いますが
グッドウィルに来て、
持参した電話帳から適当な就職先を
探しては、失業保険事務所からもらって来た用紙に
書き写す人も時々見かけました。
家にコンピュータがなかったのでしょう。
読売新聞のこの記事を読んで、
さすがにケン・ローチの目のつけどころは
すごいと思ったわけです。
カンヌでの受賞の後のインタヴューで
彼は、政府が支給する様々な手当て
受給のシステムは「無慈悲な官僚主義」
だと呼び、
人を自分は劣っていると思わせ、
絶望的にさせるものだと言っています。
政府の手当ての申し込みではなくても
私も先日の引っ越し荷物のダメージと
ロスの、保険会社への手続きで、
サイトのページの作り方と言うのか
簡単にすっと行かないシステムで
苦労しました。
実際、もういいわ、と思いかけたくらい。
一体コンピュータとインターネットは
人を幸福にしたのか。
ことある度に、日々そういう疑問を
私たち(私と家人)は口に出しています。
I, Daniel Blake
たまたまかも知れませんし、ケン・ローチに
そんな意図があったのかどうか
知る由もありませんが、Blakeと聞くとつい
イギリスの詩人
ウィリアム・ブレイクを思い出してしまいますが、
Blakeというのはイギリスではポピュラーな
ファミリーネームなのかも知れません。
0 件のコメント:
コメントを投稿