以下は今日の朝日新聞の記事です
(核リポート)非核化へ「プルトニウム大国」日本の責任
北東アジアの核をめぐる状況を指して、そんな言葉をよく耳にするようになった。核兵器の材料になり、長崎原爆で使われた核分裂性物質プルトニウムは、原発の使用済み核燃料を再処理することで、できる。このプルトニウムをめぐる国家間の「競争」意識が、国家主義や民族主義ともからまって起きている、という指摘だ。
被爆から71年を迎えた広島。原水爆禁止日本国民会議(原水禁、旧総評系)が開いた原水爆禁止世界大会・広島大会の8月6日のまとめ集会で、韓国から参加したNPO「エネルギー市民連帯」のソク・クァンフン氏は「北東アジアでいま、プルトニウム・ナショナリズムが台頭している。日本政府はプルトニウムをつくる再処理を進め、韓国も、日本に続いて再処理を進めようとしている。もしトランプ氏が米大統領選で当選すれば、北東アジアでプルトニウムが拡散する契機になる」と警告した。
日本は、核兵器は保有していないものの、核兵器になるプルトニウムを大量に保有する「プルトニウム大国」だ。国内に10・8トン、再処理の委託先である英仏両国内に保管している分が37・1トンの計47・9トン。プルトニウムは約8キロで原爆1発ができるとされ、単純計算すれば、原爆6千発分に相当する。
日本はさらに、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理施設を近い将来に稼働させ、新たな「プルトニウム生産」に乗り出そうとしている。日本政府はこのプルトニウムをウランと混ぜた「MOX燃料」にして原発で燃やしたり、高速増殖炉で使ったりする方針だが、原発の再稼働は推進派の思惑通りには進まず、増殖炉は実用化の見通しが立たない。六ケ所村の再処理施設の稼働で、プルトニウム保有量はますます増えるおそれがある。
お隣、韓国の「核主権論者」は、そんな日本を「模範」にしている。24基の原発をもち、「原発輸出大国」も目指す韓国政府や原発推進勢力は、日本と同じような自国内での使用済み核燃料の再処理の実現を目指している。核燃料の調達を頼る米国との原子力協力協定の決まりで、韓国はこれまで米国から自国内での再処理を認められてこなかった。だが、「日本がよくて、なぜ韓国はだめなのか」との訴えが功を奏したのか、昨年、米国に再処理工程の一部の国内施設での研究を認めさせ、主要な保守系メディアは「第一歩を踏み出した」と歓迎した。
韓国では、北朝鮮の核開発を背景に「我々も核をもつべきだ」と核保有論が公然と語られている。ただ、実際に核兵器開発に踏み込めば、国際社会の経済制裁を受けかねない。そこで日本と同じように、原発の使用済み核燃料の再処理で「プルトニウム」を蓄え、「潜在的な核保有能力」をもつことを目標にしている、とみられている。保守系の政治学者で元統一研究院長の金泰宇(キム・テウ)氏は「日本はまさに模範だ。国際社会からいかなる制裁も受けずに膨大なプルトニウムを保有している」と語る。
米大統領選の共和党候補トランプ氏は、米紙とのインタビューで米軍の負担を減らす一環として、日本と韓国の「核武装」を容認する発言をしている。トランプ氏が当選したからといって、日韓がすぐに核開発に乗り出すとは考えられないが、「潜在的な核保有」論を刺激する恐れがある。さらにいま、中国もフランスの協力のもと、日本や韓国と同じように「平和利用(商業用)」を掲げた再処理施設を導入しようとしている。
広島を訪れた韓国のソク氏は、前日に参加した原水禁の国際会議でも、「もし日本が再処理を続ければ、韓国も同じ道を進むだろう。プルトニウムを保有したいと望む日韓の『プルトニウム・コミュニティー』は隣国が再処理を進めることを、自国の再処理推進の口実にしている。互いに利用して助けあっているのだ」と指摘した。
この国際会議には、米国東海岸のサウス・カロライナ州にある核施設群「サバンナ・リバー・サイト(SRS)」の監視活動を続けるトム・クレメンツ氏も参加した。
米国でこれまで製造された兵器級プルトニウムの総量は103・5トンに達するが、このうちSRSが36・1トンで、残りの67・4トンは長崎原爆に使用されたプルトニウムも製造したハンフォード・サイト(ワシントン州)で製造された。米国の核政策の重要拠点のひとつだ。
このSRSに今年、日本から「331キロ」のプルトニウムが搬送された。
茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置で研究用に使われていた分で、2014年3月の核保安サミットでオバマ米大統領と安倍晋三首相が、核テロ対策強化の一環として米国への引き渡しに合意したものだ。
クレメンツ氏は、このプルトニウムを積んだ英国籍の運搬船が3月に東海村の港を出てから、タスマン海やアフリカ大陸南端の喜望峰を経て、6月にサウスカロライナ州の港に着き、トラックでSRSに到着するまでを追跡・監視した。日本から運ばれたプルトニウムに対し、地元の州知事はSRSに搬入しないよう、米エネルギー省に要請していた。地元ではSRSが国際的な核廃棄物やプルトニウムの集積場になりかねないとの懸念が広がっているという。
クレメンツ氏は、プルトニウムは「軍事用」「民生用」を問わず、すべてが核兵器に利用可能であることを強調。日本が47・9トンという膨大な量のプルトニウムを保有していることを踏まえ、今回の331キロ(=0・331トン)の搬送では「何の解決にもならない」と指摘し、「再処理はプルトニウムをさらにため込み、核の拡散リスクを高めるだけだ。六ケ所村の再処理工場の稼働は取りやめるべきだ」と訴えた。
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日本の大量のプルトニウム保有は危険だ。これ以上増やしてどうするんだ――。そんな懸念は米国の知識層の間でも広がっている。
「再処理に経済的合理性はほとんどなく、核セキュリティーと不拡散上の心配を強めるものだ。米国は支援も奨励もしない」。3月中旬の米議会公聴会で、国際安全保障・不拡散担当のカントリーマン国務次官補はこう証言した。日中韓を念頭に「(再処理から)撤退すれば非常に喜ばしい」とも述べた、と報じられた。
また、米不拡散政策教育センターのソコルスキー事務局長は、米紙ウォールストリート・ジャーナル(5月8日付)で、日中韓が推進する再処理政策について「経済性や安全保障上のリスクを懸念する声があるが、プルトニウム技術で後れをとってはならないというナショナリズムの声に負けている」と指摘し、日中韓ともにプルトニウム製造(=再処理)を停止すべきで、米国はそのための支援をすべきだ、と提唱した。
長崎市で7月末に開かれた国際平和シンポジム「核兵器廃絶への道~オバマ時代から未来へ」(主催:長崎市、朝日新聞社など)で元米国務次官補(政治・軍事担当)のロバート・ガルーチ氏は、青森県六ケ所村の核燃料再処理工場や中国、韓国の再処理をめぐる動向に触れ、「再処理で生まれたプルトニウムを自前の核兵器開発につなげる可能性を日中韓とも捨てていない。これは日本だけでなく、北東アジア、そして世界全体の安全保障問題だとの認識が必要だ」と述べた。日本が断念しようとしない再処理を、単に原発・エネルギー政策の問題としてみるのではなく、核拡散や安全保障の問題として対処を考えるべきだ、との忠告だ。
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この夏、北朝鮮が「プルトニウム生産」を表明した。共同通信(電子版)によれば、北朝鮮の原子力研究院が8月17日、同通信に対し「黒煙減速炉(原子炉)から取り出した使用済み核燃料を再処理した」と表明、寧辺の5千キロワット級の原子炉で核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを明らかにした、という。
「核なき世界」を実現するためにも、北朝鮮の核開発は、決して許されない。北東アジアの緊張と周辺国の一層の軍備増強を招くだけだ。ただ、北朝鮮の「プルトニウム生産」を問題視するだけで、北東アジアの核問題は解決しないのではないだろうか。
周辺国では、日本の膨大なプルトニウム保有は「潜在的な核保有」ともみられていると認識すべきだ。そして、「プルトニウム生産」である使用済み核燃料の再処理推進は見直し、一部を保管している英仏や米国とも処分方法を検討して「プルトニウム廃絶」への道を目指すべきではないか。「北東アジアの非核化」は、東洋最大の「プルトニウム大国」である日本も鍵を握っている。
http://www.rokkasho-rhapsody.com/index2
チャンスがあったら、見てください。
「六ヶ所村ラプソディー」
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